セルロースはグルコース残基が (1→4)-β-グリコシド結合で連結された基本単位を有する天然高分子である。2つのグルコース分子が、エーテル結合とO-OHおよび OH-OHCH2が形成する水素結合を介して、ねじれて結合したセロビオースを基本単位としている。バクテリアセルロース(BC)の構造は菌株の種類や培養条件に依存する。通常の静置培養で、重合度はおよそ4000~10,000程度であり、この繊維が菌体外でさらに水素結合の形成などで収束して、幅20~100 nm程度の紐状のミクロフィブリルを形成する。1)
セルロースの構造には多くの多型が知られているが、微生物生産のセルロースは他の天然セルロースと同様に隣り合うセルロース鎖が互いに平行であるI 型をとっている。熱力学的に不安定な三斜晶構造のIがその60%以上であり、単斜晶構造が主である植物由来のセルロースと異なっている。2,3)
セルロースを生産する菌株には、Azotobacter, Gluconacetobacter (以前はAcetobacter やKomagataeibacterと呼ばれていた), Pseudomonas, Salmonella, Sarcina ventriculiなどがある。この中で、酢酸菌であるGluconacetobacter xylinus, Gluconacetobacter hansenii, Gluconacetobacter pasteurianusが、もっとも活発にセルロースを生産する。酢酸菌は絶対好気性細菌であり、アルコールや糖を二酸化炭素にまで酸化せずに、不完全酸化した有機酸として菌体内に蓄積する。2,3,4)
微生物が体外にセルロースを生産することは、1886年のA.J.Brownの厚膜形成の報告に始まり、のちにこれがセルロースであると同定された。Gluconacetobacter xylinumは、2% グルコースのHerstrin-Schramm培地、29℃ 4日間の100 ml静置培養で、200㎎程度のセルロースを生産する。Herstein らの報告によれば、セルロース産生には通常の呼吸以上の大量の酸素が必要である。乾燥菌体1 mg、1 hrあたりの、グルコース重合反応は0.2 μmolグルコース当量程度であり、この時の酸素消費量は4.8 μmol程度であった。これらから計算すると、1 mlの培地中に含まれるグルコース(終濃度2%)の10%を重合するためには、約5.4 mlの酸素が必要な計算となる。5)
培地中の炭素源と窒素源の比率調整、培地のpH調整、28~30℃での培養によって、バクテリアセルロースの生産量を上げることができる。基質となる炭素源としてはグルコース、シュークロース、マルトース、ラクトース、マンニトール、エタノール、グリセロールなどがある。これらのC源を代謝し、glucose→glucose-6-P(G6P)→glucose-1-P(G1P)→uridine diphosphate glucose(UDPG)を合成する。細胞膜を貫通している合成酵素複合体は、このUDPGを基質としてセルロースを合成し、菌体外に放出する。3,6,7)
ゲル状のセルロースを希アルカリで除タンパクし、水洗後乾燥するとフィルムができる。動的ヤング率は50 GPaにも及び、紙の数十倍、ポリエチレンの数倍の強度になる。この硬さを利用して、スピーカーの振動板への利用が注目されている。3)
また、未乾燥のバクテリアセルロースは99%にも及ぶ水分子を結合しており、純度が高く、安定で、ヒトにとって安全である。そのため、食品、化粧品、医薬品分野、特に、再生医療、創傷保護、ドラッグデリバリーなどへの利用が注目されている。また、培養中や培養後に、種々の活性化合物で処理することによって、異なった特性を持つ誘導体が合成できる点も注目されている。7,8,9)
バクテリアセルロースの市場は順調に成長しており、2025年末には7億ドルに近いと予測されている。7)
【参考文献】